ストレス性の不眠に柴胡剤が有効 傷寒論に学ぶ処方決定の醍醐味

 ストレスを抱えて発現している症状は、うつや不眠など精神的な要素を含んでいることが多いものです。今回は、肩こりや疲労感などのほかに、不眠が劇的に改善した2例をご紹介します。

 

 1例目は42歳の女性。身長159cm、体重55kg。動悸、不眠、月経痛などで当科通院中の方です。ご主人がうつ病で休職したり、娘さんがパニック障害になるなどで、ストレスの多い生活が続いていました。ある日、「体がきつい。家事をするのもしんどい」とのことで受診されました。そのほか、肩こりと頭重感も強く訴えます。

 診察すると、脈は沈で虚実は中等度、腹力は中等度で心下悸、臍上悸を触れ、左の胸脇苦満を認めます。

 ツムラ柴胡加竜骨牡蠣湯(サイコカリュウコツボレイトウ)(TJ-12)を処方したところ、4週後、「体のきつさがとれた。家事が普通にこなせるようになった。肩こりと頭重感も大分楽になった」と症状の改善がみられ、さらに「睡眠薬なしで眠れるようになった」とのことで、不眠まで改善し、大変感謝されました。

 

 2例目は53歳の女性。身長154cm、体重47kg。6年前、母親の介護をするようになった頃から不眠と易疲労感があり、3年前、胃の手術をした後より不眠に加えて抑うつやイライラがひどくなり、外科から当科を紹介されました。「神経が高ぶって眠れない」とのことで、入眠障害と中途覚醒がみられ、その他、些細なことが気になる、口が乾く、肩がこるなどといった症状がみられます。

 診察すると、脈は浮沈間でやや弱、腹力はやや弱で、心下痞コウ、臍上悸、左胸脇満微結を認めます。

 ツムラ柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)(TJ-11)を処方したところ、4週後、「ぐっすり眠れるようになった。イライラと疲労感が劇的に良くなった。前ほど精神的に落ち込まなくなった」と諸症状の著明な改善がみられました。

 

【考察】

 1例目は、強い倦怠感と胸脇苦満、腹動を目標に柴胡加竜骨牡蛎湯を処方しました。

 柴胡加竜骨牡蛎湯は少陽病期やや実証の方剤です。腹力は中等度以上で、腹部に胸脇苦満と腹動を認めるのが特徴です。そのほか、動悸、不眠、悪夢、驚きやすいといった精神不安や、イライラ、易怒性などの肝気亢進、肩こり、便秘などがみられます。

 この症例では、「体がきつい。家事をするのもしんどい」という症状を、傷寒論の条文「一身悉く重く転側すべからず」ととり、不眠、肩こり、胸脇苦満などを目標に柴胡加竜骨牡蛎湯を投与しました。その結果、倦怠感とともに不眠と肩こりまで改善しました。

 2例目は、「神経が高ぶって眠れない」という症状と、イライラ、口乾、胸脇満微結、腹動などを目標に柴胡桂枝乾姜湯を処方しました。

 柴胡桂枝乾姜湯は少陽病期虚証の方剤で、傷寒論には「胸脇満微結、小便利セズ、渇シテ嘔セズ、但頭汗出デ、往来寒熱、心煩スル者」と記載されています。腹部は軟弱で胸脇満微結(軽い胸脇苦満)があり、腹動を触れるのが特徴です。のぼせや口唇乾燥のほか、動悸、不眠、悪夢、驚きやすいといった精神不安や、イライラ、易怒性などの肝気亢進がみられます。

 柴胡加竜骨牡蛎湯とよく似ていますが、虚実の差があります。さらに虚証で胸脇苦満もなければ桂枝加竜骨牡蛎湯が適応となります。