抑うつ、倦怠感を訴える子どもに柴胡剤が奏功 証の見極めが鍵

 鼻炎やアトピーなどで漢方外来に来る子どもは多いのですが、ある週、抑うつと倦怠感を訴える2人の子どもが続けて来ました。いずれも柴胡剤が奏効しました。「現代社会ならではだなぁ」と感じた2症例を紹介いたします。

 

 1例目は15歳、高校1年の女子。身長151cm、体重49kg。高校進学後、友人関係の悩みを契機に抑うつ状態となり、心療内科で治療を受けたものの改善しないとのことで受診してきました。やる気がおきない、人と話せない、頭がボーッとする、好きなテレビも見る気がしないとのこと。診察中もうつむいて目を合わせず、声も小さく、無表情で元気がありません。その他、頭が痛い、胸がつまる、ごはんの味がしない、食べると胃がはる、すぐ疲れるなどと訴えます。心理テストの結果からは強い抑うつと不安が示唆されました。

 一方、診察所見では、脈は沈んで強く、腹力も充実しています。さらに左右の強い胸脇苦満と心下痞があり、腹直筋が全長にわたって太くガッチリと張っています。

 ツムラ四逆散(シギャクサン)(TJ-35)を処方したところ、1週後、「前ほど暗くならなくなった。頭痛が軽くなった。だるさも少しいい。お笑いをみて笑った」とのこと。3週後には食欲も回復し、笑顔がみられるようになりました。

 

 2例目は11歳、小学5年の男子。身長153cm、体重52kg。血色がよく、体格のいい子供です。ここ数カ月、朝身体がだるくて、おもりを入れられたように重いとのことで受診してきました。さらに便がスッキリ出ず、排便に30分から1時間もかかるようになったとのこと。小児科で起立性調節障害を疑われ治療を受けたものの改善しませんでした。

 診察したところ、脈はやや沈んで細く力があり、腹力は中等度で、左右の胸脇苦満(左>右)、さらに心下痞と、臍の上下に動悸を強く触れます。

 ツムラ柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)(TJ-12)を処方したところ、1週後、だるさがだいぶ軽くなったとのことで、母親も「今週は調子がいいみたい。トイレの時間も少し短くなった」とおっしゃっていました。3週後には、だるさはほとんどなくなり、トイレの方もほとんど気にならない程度になりました。

 

【考察】

 1例目は、両側の胸脇苦満と腹直筋の全長にわたる強い緊張を主な目標として四逆散を処方しました。四逆散は少陽病期虚実間証からやや実証の方剤で、体格はガッチリして体力もあるが、顔色が悪く少し冷えっぽく、鬱っぽく、お腹が弱く下痢しやすい、あるいは下痢と便秘を繰り返すといった傾向があり、過敏性腸症候群にも応用されます。

 2例目は、胸脇苦満と腹部の動悸、体が重いという症状を主な目標として柴胡加竜骨牡蛎湯を処方しました。

 なお、傷寒論の条文に「一身悉く重く転側すべからざる者」、すなわち体が重く寝返りもできないとの記述があります。柴胡加竜骨牡蛎湯は、少陽病期やや実証の方剤で、他に動悸、不眠、悪夢、驚きやすいといった精神不安がよくみられます。虚証では柴胡桂枝乾姜湯との鑑別が必要になります。