兄妹で受診した喘息に麻杏甘石湯と小青竜湯 違いは熱候と水毒

 今回は、喘息の2例をご紹介します。兄妹の同じ病気ですが、お兄さんには麻杏甘石湯、妹さんには小青竜湯が有効でした。

 

 はじめは6歳のお兄さんです。身長115cm、体重19kg。かぜをひきやすく、季節の変わり目やかぜをひいた時、疲れた時にはすぐ咳が出て、その後、胸がヒューヒューいうとのことです。小児科で気管支拡張薬、テオフィリン薬、抗アレルギー薬などの投与を受けていました。

 初診時、すでに咳が出ており、夜は咳き込んで眠れないこともしばしばでした。問診では暑がりで汗かき、冷たい飲み物を好むといった傾向がみられました。

 ツムラ麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)(TJ-55)5g/日を投与したところ、2週間後には「咳がだいぶ落ち着いた。夜眠れるようになった。小児科の薬がほとんど要らなくなった」とのことで、5週間後には「漢方薬だけで調子いい。咳はたまに出るくらい」というまでに改善しました。

 

 次は3歳の妹です。身長94cm、体重14kg。この子もかぜをひきやすく、かぜをひくとすぐ咳が出て喘鳴が出現します。また、寒い日や季節の変わり目には、くしゃみと鼻水がよく出るとのことです。

 問診では、お兄さんのような口渇はなく、腹診で胃部に振水音を認めました。

 ツムラ小青竜湯(ショウセイリュウトウ)(TJ-19)5g/日を投与したところ、5週間後には「1度かぜをひいたが、吸入せずにすんだ。鼻水が出なくなった。鼻詰まりも良くなった」とのことでした。

 

【考察】

 1例目は、喘鳴、口渇、発汗傾向を目標に麻杏甘石湯を処方しました。

 麻杏甘石湯は少陽病実証の薬で、小児の気管支喘息の発作期に頻用されます。熱候が強く、発汗と口渇が特に発作時によくみられます。構成生薬にも清熱剤の石膏が含まれています。ただし発熱はあっても軽度で、太陽病のような悪寒を伴うことはありません。

 傷寒論には「汗出でて喘し、大熱なき者」と記載されています。比較的飲みやすく、小児には使いやすい薬です。

 2例目は、喘鳴とくしゃみ、鼻汁、胃部振水音を目標に小青竜湯を処方しました。

 小青竜湯は太陽病虚実間証の薬です。陽証であるにも関わらず、少し冷えっぽい傾向があります。顔色もあまり良くなく、熱が主体の麻杏甘石湯とは対照的です。構成生薬にも熱薬の乾姜が含まれています。

 さらに水毒が明らかで、くしゃみや鼻汁がみられることが多く、アレルギー性鼻炎に頻用されます。腹診では、しばしば胃部に振水音を認めます。

 傷寒論には「心下に水気あり、咳して微喘し、発熱して渇せず」と記載されています。

 麻杏甘石湯と小青竜湯は、いずれも麻黄を含みますが、麻黄の主成分エフェドリンには気管支拡張作用、鎮咳作用、消炎作用があるため、麻黄含有方剤は呼吸器疾患によく用いられます。ただし、虚血性心疾患、甲状腺機能亢進症、排尿障害などのある方に投与する時には注意が必要です。また、過敏な人では動悸や不眠がみられたり、胃腸の弱い人では胃痛や食欲低下がみられることもあります。