上腹部痛に柴胡桂枝湯 下腹部痛に当帰建中湯 生理痛にも頓服で

 今回は、腹痛の定番処方から柴胡桂枝湯と当帰建中湯をご紹介します。即効性もあるので、急な胃痛や生理痛などに重宝すると思います。

 

 1例目は51歳の女性。身長152cm、体重56kg。変形性膝関節症で当科へ通院中の方です。2週間前から、空腹時を中心として時々上腹部痛(胃に差し込むような痛み)が出現するようになりました。近医で胃カメラと腹部エコー検査をうけたものの異常は指摘されず、H2ブロッカーを処方されましたが、痛みがとりきれないとのことです。

 診察すると、脈力は中等度、腹部はやや軟弱で、心下痞こうと左の胸脇苦満があり、上腹部を中心に腹直筋の緊張を認めます。

 ツムラ柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)(TJ-10)を処方したところ、徐々に痛みが軽くなり、1週間後には痛みは完全に消失しました。その後H2ブロッカーを中止しましたが痛みの悪化はないため、4週間で治療終了としました。なお、次の診察日に腹部の胸脇苦満は消失していました。

 

 2例目は30歳の女性。身長155cm、体重51kg。便秘と足のむくみで当科へ通院中の方です。ある朝、月経開始とともに下腹部が張りだし、徐々に痛みが強くなってきました。鎮痛薬を内服したものの効果がなく、ちょうど受診日であったためそのまま来院しました。

 診察したところ、顔色不良で痛みのため会話も困難な状態です。脈力、腹力は中等度で、腹直筋が上腹部から下腹部までピーンと緊張しています。

 ツムラ当帰建中湯(トウキケンチュウトウ)(TJ-123)2.5gを内服させ、ベッドに休んでいただきました。すると、10分を過ぎた頃から痛みが軽くなり、痛みの間隔も長くなってきました。そして30分後には痛みはほとんどなくなり、いつもの元気な姿で帰っていきました。

 

【考察】

 1例目は、上腹部痛と胸脇苦満、心下痞コウ、上腹部中心の腹直筋緊張を目標に柴胡桂枝湯を処方しました。柴胡桂枝湯は少陽病やや虚証の薬です。急性期ではかぜの治り際などによく使われますが、今回のような上腹部痛にも使われます。

 金匱要略には、「心腹卒中痛スル者ヲ治ス」すなわち、急な上腹部痛に用いることが記述されています。なお、柴胡桂枝湯は小柴胡湯と桂枝湯を半分ずつ足したような薬ですが、小柴胡湯にも桂枝湯にも「心腹卒中痛」はありません。

 2例目は、強い下腹部痛と腹直筋の全長にわたる緊張を目標に当帰建中湯を処方しました。当帰建中湯は太陰病やや虚証の薬です。腹力は中等度以下で、腹直筋は緊張しているものの厚みがありません。下腹部の張りや痛みによく効き、生理痛には頓服でも使えますが、その場合、痛みがひどくなる前に飲ませた方が良いようです。冷えが強く、温めると痛みが緩和されるようなら、ブシ末を加えるとさらに効果的です。

 芍薬甘草湯が適応になるような腹痛でも腹直筋の全長にわたる緊張がみられますが、芍薬甘草湯の痛みは急迫性で激しいことが多く、腹痛以外にも、ぎっくり腰、こむら返り、胆石、尿管結石など、筋の異常痙攣に伴う様々な痛みに用いられます。