脾虚・気虚の食欲不振に六君子湯 冷えがあれば人参湯

 1例目は77歳の女性。身長142cm、体重39kg。4年前より、口腔内乾燥感で通院中の方です。ある年の夏、発熱と下痢が出現。その後発熱、下痢は消失したものの食欲がなく気力も出ない、1ヶ月以上たっても改善しないとのことで受診されました。

 診察すると、脈は沈んで弱く、胃部に振水音を認め、舌には乾燥した白苔がまだら状に付着しています。

 ツムラ六君子湯エキス(TJ-43)を処方したところ、4週後、「食欲が戻った。食べ過ぎるくらい。」と、笑顔がみられました。6週後には、「元気が出てきた。とても調子が良い。」とのことで治療を終了としました。

 

 2例目は97歳の女性。身長134cm、体重34kg。高齢ですがADLはほぼ自立した方です。ある年の秋、老人ホームの運動会に出場したところ寒くて冷えてしまい、その後くしゃみ、鼻汁、頭痛が出現し食欲が低下。近医で投薬と点滴を受けていましたが食欲が回復せず、1ヶ月後から食事が殆んど入らなくなり、活動性も低下してきたとのことで当科へ紹介入院となりました。

 強い倦怠感と全身の冷えを訴え、診察すると、脈が弱く、腹部に心下痞硬を認めました。

 点滴を続けながらツムラ人参湯エキス(TJ-32)を投与したところ、どんどん食事が入るようになり、3日後には点滴が不要となりました。1週間後には食欲はほぼ元通りとなり、倦怠感もなくなるなど驚くような回復をみせ、元気に退院されました。

 

【考察】

 1例目は、食欲不振、気力低下、胃部振水音を目標に六君子湯を処方しました。

 六君子湯は、四君子湯に二陳湯の方位を足した方剤で、茯苓、朮、人参、甘草で消化吸収を助けて気を補い、生姜、半夏、陳皮で心下の水をさばいて胃の機能を整えます。水毒のため胃部振水音や厚い湿った舌苔を認めることが多いですが、気が不足すると、この方のように舌苔がまだら状になることがあります。

 2例目は、食欲不振、心下痞鞕、冷えを目標に人参湯を処方しました。 参湯は人参、甘草、乾姜、朮の4味で構成され、中焦(胃腸)を温め消化吸収を助けて気を補います。腹診では心下痞鞕がみられ、触ると冷感を認めることもあります。六君子湯とは、冷えと水毒の有無で鑑別します。