瘀血による冷えに桂枝茯苓丸 陰陽を見極め血の巡りを改善

 冷えを訴えられる患者さんは大変多いですが、瘀血が原因の場合は温めても改善が得られません。今回は、桂枝茯苓丸で冷えが消失したケースを2例ご紹介いたします。

 

 1例目は53歳の女性。身長150cm、体重46kg。手足の冷えと腱鞘炎による手指の痛みを主訴に来られました。若い頃から冷え性で、冬は足にカイロを貼り、寝る時は靴下をはいた上に湯たんぽを使っているとのことです。

 診察すると、冷えるという割に手足は温かく、血色もよく、顔面には紅潮がみられます。声も大きく元気溌剌といった感じです。脈は沈んで強く、腹力は充実しており、両臍傍部に放散を伴う強い圧痛としこりを認めます。

 ツムラ桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)(TJ-25)を投与したところ、2週間後、「カイロがいらなくなった。指の痛みが薄れてきた。肩こりが楽になった」とのことで、その後も処方を継続しています。

 

 2例目は75歳の女性。身長159cm、体重52kg。肩こりと足の冷えで当科へ通院中の方です。当初は、年齢や小腹不仁の所見などから八味地黄丸を投与していましたが、なかなか改善しないため、ある日、証を再考しました。すると、問診で「足が冷える」と聞いていたのは、下肢全体ではなく足先を中心とした冷えであることが分かりました。

 診察所見では、脈力、腹力とも中等度で、左臍傍部に放散を伴う圧痛を認めます。頬にはうっすら紅潮がみられ、足関節以下、特に足先に強い冷感を認めます。

 そこで桂枝茯苓丸を投与したところ、4週後、「足が温かくなってきた。肩こりが大分とれた」とおっしゃっていました。

 

【考察】

 桂枝茯苓丸は、瘀血に対する代表的な薬の一つで、陽証の実証から虚実間証まで比較的幅広く用いられます。少しのぼせる傾向があり、口唇や舌の暗赤化、眼瞼部や顔面の色素沈着、毛細血管の拡張などの瘀血証がみられ、腹診で下腹部臍傍に放散を伴う圧痛を認めるのが特徴です。また、実証では同部に抵抗やしこりを触れることがあります。

 臨床的には月経痛、月経不順、不妊症、子宮筋腫、更年期障害などの婦人科疾患や、肩こり、神経痛、皮膚病、その他、瘀血に伴う様々な疾患に用いられます。

 鑑別が必要な駆瘀血剤として、桃核承気湯、大黄牡丹皮湯などがあげられます。

 桃核承気湯は桂枝茯苓丸より実証で、冷えのぼせが強く、便秘とS状結腸部の圧痛(小腹急結)がみられます。大黄牡丹皮湯はのぼせがなく、便秘と回盲部の圧痛(少腹腫痞)がみられます。

 1例目、2例目とも、冷えが主訴ではありましたが陰証とは思われませんでしたので、のぼせと臍傍部の圧痛を目標に桂枝茯苓丸を投与しました。その結果、冷えの自覚が改善したため、手足の冷えは血による血の循環障害が原因であったことが分かりました。このような患者に温(熱)薬や熱薬を用いると、のぼせやほてり、動悸などを生じる恐れがあるため、陰陽の見極めが重要になります。