水毒体質の膝痛に防己黄耆湯 関節の腫れ・水腫を参考に

 1例目は73歳の女性。身長147cm、体重55kg。歩行時右膝に違和感を感じた後、徐々に痛みが出現し、シップを貼ったものの2週間たっても改善しないとのことで受診されました。

 診察すると、脈は沈実、腹力は中等度。汗かきで顔面にやや紅潮があります。体格はポッチャリとした水太りで、診察台に横になるとお腹が横に垂れまるで蝦蟇蛙のようです。右膝には軽度の腫脹と関節水腫を認めます。

 ツムラ防已黄耆湯エキス(TJ-20)を処方したところ、2週後、「痛みがとれた!動かした時に少し痛むくらい。」と著効がみられ、4週後、「スイスイ歩けるようになった。痛みはまったくない。たくさん歩いても大丈夫。」とのことで、関節の腫脹も消失しました。さらに「気力が出てきた。漢方を飲む前と全然違う。」と、何だかとても元気になりました。

 

 2例目は75歳の女性。身長150cm、体重61kg。20年ほど前から両膝に痛みがあり、鎮痛薬を内服しながら時々穿刺排液をうけていましたが、徐々に痛みが強くなり安静時痛も出現してきたとのことで受診されました。レントゲン上、両膝の関節裂隙狭小化と骨棘形成を認め、変形性膝関節症と考えられました。

 診察すると、脈力、腹力は中等度。汗かきで尿の出が悪く、水太り体質です。

 ツムラ防已黄耆湯エキス(TJ-20)を処方したところ、1週後、「夜中に疼くことがなくなった。」4週後、「痛みは初めの半分くらい。鎮痛薬がいらなくなった」と改善傾向がみられましたが、「クーラーで冷えると悪い。」とのことで修治ブシ末1gを追加。その後痛みはほぼ消失し、膝に水が溜まることもなくなり、半年後には正坐ができるようになりました。

 

【考察】

 1例目は、水太り、自汗傾向、関節腫脹・水腫から、2例目は、水太り、自汗傾向、尿不利、関節水腫を目標に防已黄耆湯を処方しました。

 防已黄耆湯は、金匱要略に「風湿、脈浮ニシテ、身重ク、汗出デテ悪風スル者」と記載されています。水毒傾向があり、水太りで体が重く、汗をかきやすく、浮腫、尿量減少などを認める場合の関節の腫脹、疼痛に用いられます。

 膝関節痛の鑑別処方として、越婢加朮湯、桂枝加朮附湯、桂枝芍薬知母湯などがあげられます。越婢加朮湯は実証で、局所が熱っぽく腫れていて口渇がみられます。慢性期で熱感がなく、温めると改善すような「冷え」が生じていれば桂枝加朮附湯を用います。桂枝芍薬知母湯は、高齢者で痩せて膝だけコブのように腫れた「鶴膝風」に使うとされ、関節の軽い熱感、皮膚の枯燥がみられます。