吐くほど激しい頭痛に呉茱萸湯 嘔気、手足の冷えなどの所見が鍵

 「頭痛持ち」といわれる方は案外と多いものです。処方決定の際には随伴する症状の見極めが重要ですが、今回は吐き気を伴うほどの頭痛に対して呉茱萸湯が奏功した2例をご紹介します。

 

 1例目は61歳の女性。身長145cm、体重49kg。頭痛、心下部痛、足の冷えを主訴に来院されました。20年ほど前から足が冷えるようになり、2~3カ月に1度、肩こり、嘔気、悪寒を伴う頭痛が起こるようになりました。半年前からは激しい頭痛が月に2~3度起こるようになり、頭痛時に嘔吐するようになりました。なお、頭痛は吐くと楽になるとのことです。

 診察すると足が冷たく、脈は沈細、腹力はやや弱く、心下痞コウの所見を認めます。

 ツムラ呉茱萸湯(ゴシュユトウ)(TJ-31)を処方したところ、2週後「飲むと20~30分で頭の中が通った感じがする。足の冷えが少し良い」、4週後「頭痛が3回あったが、ひどくならなかったので鎮痛薬を飲まずにすんだ。靴下を履かなくても眠れるようになった」、6週後「たまに頭の左側が少し重くなるくらい」と徐々に改善がみられ、2カ月後には「頭痛はまったくない。クーラーが平気になった。汗がよく出るようになった。“夏は暑い”と感じるようになった」とのことで、頭痛の消失とともに冷えも消失しました。なおこの時、初診時に認めた心下痞コウの所見はなくなっていました。

 

 2例目は45歳の女性。身長153cm、体重45kg。10代の頃からの頭痛持ちです。時々脈打つような激しい頭痛と嘔気があり、ひどい時は寝込んでしまい、仕事を休まなければなりません。また、大変な寒がりで、強い肩のこりも訴えます。

 診察すると手足が非常に冷たく、脈は沈細、腹力はやや弱く、心下痞コウの所見を認めます。

 呉茱萸湯を処方したところ、4週後「痛みが少し楽だった」とのことで続けてみました。すると、徐々に頭痛の程度が軽くなり、あっても頭重感程度となりました。そして今では頭痛薬が不要となり、仕事を休むこともなくなりました。

 

【考察】

 2例とも、嘔気、嘔吐を伴う激しい頭痛、肩こり、冷え、心下痞を目標に呉茱萸湯を処方しました。

 呉茱萸湯は、太陰病期やや虚証の薬です。傷寒論には、「乾嘔シテ涎沫ヲ吐シ頭痛スル者」「吐利シ手足逆冷シ煩燥死セント欲スル者」と記載されており、悶え苦しむほどの激しい頭痛と嘔気、手足の冷えが特徴的です。そのほか首・肩の凝り、心下部の膨満感や、心下痞コウの所見がみられます。

 漢方医学的には、胃の寒飲が上に衝き上げて頭痛や嘔気を起こす(そのため吐くと改善する)と考えられます。

 鑑別を要する主な処方としては、葛根湯、五苓散、桂枝人参湯などがあげられます。葛根湯は冷えがなく、項背部の凝りを伴います。五苓散は水毒が主体で、口渇、自汗、尿不利が特徴的です。桂枝人参湯には裏寒があり、上熱下寒や胃腸虚弱がみられます。