高齢者のかぜに麻黄附子細辛湯が奏功 少陰の症状を目標に鑑別

 通常、かぜでは太陽病から少陽病の病態をみることが多いですが、高齢者や虚弱者では陰証に陥っていることもまれではありません。今回は、高齢者のかぜに麻黄附子細辛湯が奏効したケースを2例ご紹介いたします。

 

 1例目は71歳の男性。身長167cm、体重60kg。気管支喘息で当科へ通院中の方です。ある年の初夏、庭仕事中に木陰で涼んでいたところ、背中に寒気を感じ、その後発熱、のどの痛み、咳、痰、鼻汁が出現。3日後から食欲がなくなり、体もきつくなってきたとのことで受診されました。

 診察すると下肢が冷えており、ご自身も「足が冷えて湯たんぽを入れないと温まらない」とおっしゃいます。脈は沈んで細く、力がありません。

 ツムラ麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)(TJ-127)2.5gを白湯に溶いて服用させ、ベッドで休んでいただきました。すると30分後には、背中の寒気が消失し、のどの痛みが軽減しました。そこで麻黄附子細辛湯を1週間分処方し帰宅していただいたところ、次の診察日には、「日に日に良くなった。時々鼻水が出るが、かぜはもう治った」とおっしゃっていました。

 

 2例目は79歳の女性。高血圧、慢性気管支炎、変形性膝関節症で当科へ通院中の方です。ある年の夏、夕方から悪寒、発熱、鼻汁が出現。近医で総合感冒薬と抗生剤を処方され熱は下がったものの、1週間たってもくしゃみと鼻汁が止まらないとのことで受診されました。聞くと、食欲が出ない、体がきつい、足が冷えると訴えます。家人によると、家ではきつがっていつも横になっているとのことです。

 診察すると脈は沈んで弱く、下肢に冷感を認めます。

 麻黄附子細辛湯を処方したところ、1週間後には、「くしゃみと鼻汁が止まった。体に力が入るようになった。足が冷えなくなった」とのことで、家人も「だいぶ元気になりました。食事も入っているようです」とおっしゃっていました。

 

【考察】

 1例目、2例目とも、足の冷えと倦怠感、脈候(沈・弱)を目標に麻黄附子細辛湯を処方しました。

 麻黄附子細辛湯は少陰病虚証の薬です。傷寒論には「少陰病、始メテ之ヲ得、反ッテ発熱シ、脈沈ノ者ハ、麻黄附子細辛湯之ヲ主ル」と記載されています。悪寒を伴う発熱と頭痛、咳嗽、水様鼻漏、手足の冷えなどがみられ、老人や虚弱者のかぜにしばしば使われます。

 少陰病では、傷寒論に「少陰ノ病タル、脈微細、但寐ント欲スルナリ」とある通り、脈が弱く、きつくて横になりたがるといった症状がみられます。

 麻黄附子細辛湯は少陰病の薬ですが、表熱を挿むため小青竜湯を鑑別する必要があります。小青竜湯は太陽病の薬で、悪寒はあっても明らかな冷えはなく、脈は浮いて緊状があります。さらに水毒のため、しばしば胃部に振水音を認めます。