高齢者の発熱に麻黄湯が奏功したケース 注意深い観察が重要

 前回は、高齢者のかぜに麻黄附子細辛湯が奏効したケースをご紹介しました。今回は、高齢者の発熱に麻黄湯が奏効したケースをご紹介いたします。

 

 患者さんは74歳の女性。身長155cm、体重35kgと大変華奢な方です。関節リウマチ、続発性消化管アミロイドーシス、慢性腎不全があり、十全大補湯などを投与していました。

 ある日、腰椎椎間板ヘルニアで当科へ入院していた時のことです。朝、病室へ行くと、食事もとらず布団にくるまり震えています。聞くと、明け方から悪寒があり、布団を2枚着ているが温まらないとのことです。体温は38.2度。

 脈をみると、平素とは全く違い、細く緊張した強い脈をしています。咳や咽頭痛などの上気道炎症状はなく、その他、顔面紅潮や発汗、口渇もみられません。

 そこでまず、ツムラ麻黄湯(マオウトウ)(TJ-27)2.5gを湯に溶いて1回内服させました。

 1時間後、外来の合間に見に行くと、悪寒は消失しており、脈の緊張もいくぶん緩んでいました。

 3時間後、体温は37.9度とやや下がり、脈の緊張はだいぶ緩んできました。ここで麻黄湯2回目を投与。

 6時間後、脈は平素のような穏やかな脈に戻っており、体温も37.5度まで下がってきました。しかし汗が全く出ていません。そこで本人に聞いてみたところ、「汗は出ないんですが、おしっこが増えて大変」とのこと。それならば大丈夫と思い、麻黄湯3回目を投与。7時間後、体温36.8度と解熱しました。

 しかし10時間後、悪寒はないものの体温が37.1度と若干上昇し、脈に再び緊張が出てきたため、4回目の麻黄湯を投与。その後は速やかに解熱するとともに、脈も穏やかになり、尿量も平常へと戻りました。

 

【考察】

 麻黄湯は太陽病・実証の薬で、急性熱性疾患では悪寒、発熱、関節痛などがあり、脈は浮いて緊張があり、自然発汗のないものが適応となります。

 この方は、平素は脈が弱く、冷え性で胃腸の弱い大変虚弱な方です。一般に高齢者や虚弱者では陰証・虚証の反応を呈しやすいのですが、今回の場合は、生体に強いインパクトが加わり、一時的に陽実証の反応を呈したものと思われます。ただし、途中で陰証に陥る可能性もあるため、注意深い観察が必要です。

 また、このような方に発表作用の強い実証の薬を漫然と投与すると、脱汗(発汗過多による体力消耗)を起こす危険があります。実際、4回目の麻黄湯を投与する前は、これ以上攻めてもよいのか迷いました。

 今回、麻黄湯を3時間毎に投与しましたが、一般に急性熱性疾患では1日3回の漢方薬の投与では不十分なことが多く、傷寒論にも3回分を半日で投与する方法が記載されています。また今回のように、発汗の代わりに利尿を得て解熱することも知られています。

 なお、発熱の原因は尿路感染症と考えられましたが、結果が出る頃には解熱傾向で、脈候の変化、自覚症状の改善から病態の好転は明らかであったため、漢方治療単独で経過をみました。もちろん、入院中だからできたことですが。